制作班より

出版に寄せて

この本の企画の着想は約二年前、東京の三鷹にある「探究学舎」という塾で小学生のお子さんたちに講演をした時のことでした。宇宙が大好きな当時小学二年生の女の子が、大人向けに書いた僕の前著『宇宙に命はあるのか』を、お母さんに振り仮名を全部振ってもらって一生懸命に読んでくれていました。この話を一番届けなくてはいけない年代の読者に届いていないと感じ、『宇宙に命はあるのか・こども版』の企画を出版社に提案したのが始まりです。忙しい本業の合間を縫って少しずつ書き、二年をかけてこのような形で世に出すことができました。

この本でとりわけ難しかったのが、12歳のミーちゃんのキャラクターの造形です。まだ子供の心を残しつつも大人の階段を登っていく繊細な乙女心を、どう表現したらいいか分からなかったのです。そこで何人かの十二歳前後の宇宙が大好きなお子さんたちにインタビューをさせてもらいました。その中にはこのメルマガの読者の方もいらっしゃいます。たとえば、8章の冒頭でミーちゃんがレゴのロケットを作ってパパに自慢するのですが、直接パパに言うのではなく、部屋にさりげなく置いておいて気づいてくれるのを待ちます。そして鈍いパパがいつまでも気づかないと、顔を真っ赤にして怒ります。実はこれ、実在する11歳のお嬢さんからお借りしたエピソードです。14章ではミーちゃんのデイノニクスという恐竜の人形「きょりゅ君」が登場しますが、これも別のお嬢さんが持っている人形を作品にお借りしたものです。他にも、ミーちゃんの言動や親との接し方など、多くの点で実際の宇宙っ子たちから数えきれないほどのヒントをもらいました。

原稿が一通り出来上がった後は、たくさんのお子さんたちやその親御さんに読んでもらい、多くのアドバイスをいただきました。1月にコルクで開催した読書会には多くの方が集まってくださいましたし、また探求学舎と広島子ども宇宙アカデミーの方達には二度にわたって読書会に参加してくださいました。さらに製作終盤では約百人の宇宙っ子や大人の方たちに「共同制作者」になってもらい、3度にわたるフィードバックや校正に協力していただきました。1度目の校正では合計で398ページにもなる感想やアドバイスを寄せていただき、また最後の校正ではなんと1211点にも及ぶ修正を指摘していただきました。巻末の謝辞には200近いお名前を載せています。おそらくその中には本メルマガの読者の方も多くいらっしゃると思います。一切のお世辞抜きに、皆様のご協力無くしてはこの本は完成しませんでした。本当にありがとうございました。

このように、出版前から読者の方に繰り返しフィードバックをもらって本を製作することは、普通ではありません。出版とはたいていは一方通行の作業で、作家と編集者が密室で作るのが常です。ですが僕は経験として、多くの方からの批判的アドバイスをもらった方が良い作品ができることを知っています。それが、我々研究者が論文を出版するときに行なっていることだからです。論文は、同じ分野の研究者の厳しい審査を受け、何度も修正を重ねなければ世に出ません。それが、論文が知識のソースとして信頼される所以です。一般向けの出版物も同じことが言えると思います。一方通行の製作ではどうしても書き手の独りよがりになってしまう。実際の読者からの批判的アドバイスに素直に耳を傾けることが、良い作品を書く一番の方法だと思っています。

さあ、皆で作り上げた作品がいよいよ世に出ます。しかし実際にはこれだけ多くの方と一緒に作った作品ですから、読者の元に「帰る」と言った方が正しいかもしれません。

この作品について、僕にはひとつの願いがあります。何十年後かの未来に、この本を読んでくれた少年少女が大人になって子供を持ったとき、ボロボロになったこの本を物置の段ボール箱の中から引っ張り出してきて、「この本はパパ/ママがあなたくらいの時に読んでとても面白かったのよ」と言いながら、ホコリを払って子供に渡す。そしてその宇宙っ子二世が僕に手紙をくれる。きっと僕はもうおじいちゃんでしょう。そんなことがあったら、それほど書き手冥利につきることはないと思うのです。

ー 小野雅裕

 

 

 

念願の宇宙の本の仕事!小野さんが1000年読まれたい!とおっしゃった。そのために「子どもたちの絵のように、わたしのまんまで描こう!」と思いました。日頃はイラストレーターとして「求められる感じ」に応えるように描くことが多いのです。しかし『宇宙の話をしよう』は挿絵のボリュームも多いし、自分のまんまを出さないと苦しくなって描ききることができないだろうと。全力投球、ほんとうの私自身の絵となりました。長距離マラソンを走りきったような満足感です。

子どもたちに、ふくよかで栄養のある絵を見ながら宇宙に想いを馳せてほしいと思っています。いつか宇宙ステーションのラウンジの壁にお花畑の絵を描きたいな。

ー 利根川初美(イラストレーター)

 

 

本書は異例づくしの児童書です。NASAの日本人技術者が子ども向けに書くというだけでなく、100人の親子が発売前の原稿をブラッシュアップするという試みも史上初でした。さらに、イラスト満載のこの本がなんと1650円(税込)!もはや利益度外視です。すべては小野さんの情熱から始まりました。2年をかけてついに形になりました。ぜひお手にとって、その重みを感じてみてください。

ー 坂口惣一(SBクリエイティブ)

 

 

 

「幼少期に出会った本は今でも特別だ」という方はいませんか?それは、好奇心に溢れ、物事を柔軟に吸収できる時期に、本を通して何かを“体験”したからではないかと思います。ただ、書籍を編集する立場になって思うことはその“体験”を呼び起こせるものをつくることは本当に難しいということです。今回、編集として書籍『宇宙の話をしよう』に携わることができました。小野さん、利根川さん、そして多くの方の協力を得てその“体験”を書籍の中に生み出すことができました。そのことが私はとても嬉しく、はやく読んでもらいたい気持ちでいっぱいです。

ー ユヒコ(コルク)

 

 

 

興味があることを聞いて見守ってくれる存在、これは多くの子どもたちにとって大事な安心できる居場所になると思います。 子どもたちに届けるための本を書きたいと小野さんがおっしゃってから、微力ながら息子もお手伝いしてる間に「小学生にはこんな感じがいいと思う」「こっちのイラストの方が宇宙好きの子にはウケる!」彼自身も幼いころの自分にこんな本があったら…という気持ちをこの本に込めることができたと思います。

好きなことを見つけたら、分かち合える存在もできるといいなと思います。 その分かち合える存在に、この本を通して出会って欲しいです。この本をきっかけにいろんな話をして欲しいです。

ー梅﨑薫(宇宙メルマガTHE VOYAGE)